今日のお話しは、中小企業庁が週に1回配信しています、「e―中小企業ネットマガジン」の9/28号の巻頭コラムからです。
「最後の一滴」というユニークなネーミングの商品を取り扱うシーフードカンパニー「能水商店(新潟県糸魚川市)」は、組織形態も随分とユニークです。運営母体は高校の同窓会、主なプレーヤーは現役の高校生たちといいます。
全国でも希有な「高校生企業」が、同社の正体です。高校生の部活(クラブ部活動)が活動主体となる同社は、地域おこしに新風を吹き込み、一方で教育や学校運営の今後に大きな示唆を与えています。
同社は昨春、数年前に新潟県立海洋高等学校(新潟県糸魚川市)の生徒が開発した魚醤「最後の一滴」を製造・販売する目的で発足しました。その母体となったのが同校同窓会の能水会(岩崎昇会長)。岩崎会長は「生徒たちに学習の場を提供し、高校時代から6次産業化に根ざした実践的な体験を通じて起業家マインドを育てる」と狙いや意義を説きます。
「NPO法人や通常の会社設立も考えたが、同窓会を受け皿に出発するのが最もスピード感があった。」(同校食品科学科教諭)という事情もあり、今日の姿かたちが出来上がったそうです。
主力商品の「最後の一滴」とは、産卵のため糸魚川を溯上する鮭を原料とする魚醤。急峻な地形の急流を遡上する鮭は脂が落ち、クセのない魚醤が仕上がるといいます。糸魚川で最期を迎える鮭を大切にしたいとの思いと、料理の最後の味付けになるとの二つの意味を込めて名付けた「最後の一滴」。
同社事業の担い手は高校生達です。食品研究部の部活が活動の中核となり、放課後や土・日曜に「仕事」に勤しむスタイルです。また、「水産流通」「総合実習」の科目実習として販売やマーケティング活動にも取り組んでもいます。
現在、同社では高校生以外にパートの数人が工場で働いています。取扱商品は看板の「最後の一滴」のほか、「最後の一滴」にダイダイなどを加えたポン酢「うおぽん」、魚醤漬けイカの姿焼き/一夜干しをはじめ、品ぞろえが進んでいます。
取扱店は地元の道の駅やスーパーを中心に拡大中で、首都圏での販売も始まっており、更に、スイスやマレーシアなど海外市場調査も実施したそうです。スイスを訪れた食品研究部の部長さんは「生のままでは魚臭さに抵抗があるようですが、パスタに入れると受け入れられることが分かりました。」と手応えを語っています。
同社の活躍ぶりはテレビ、新聞をはじめマスコミ各方面で大きく取り上げられ、そのせいか、同校への新潟県外からの入校者が急増しているといいます。食品研究部の顧問を務める先生は「地域の産業や雇用創出に寄与する会社が、生徒募集の面でも貢献するという、専門高校が果たす新たな地域振興モデルを示したい。」と抱負を語っています。また、食品研究部長は「当校の卒業生が、大学を出て、地元に戻り社員として働く。そんな会社にしていきたいです。」と目を輝かせていたそうです。