「帰史にはとどむることなかれ」

優秀な社員の確保と育成は、企業の業種・規模にかかわらず重要な課題です。優秀な社員が育てば、その企業はどこまでも大きく育つ可能性を秘めます。逆に言えば、企業が成長するには社員の成長が欠かせないともいえます。

その一方で、若者の離職率が高くなっているのも経営者の悩みの種。社員が辞めていくのは、実はトップや上司に原因が多いという事実もあるそうで、頭が痛いことです。

私とは程遠い、「デキる」「切れる」経営者からすると、未熟な社員の仕事ぶりにイライラすることも多いはず。仕事に失敗は付き物です。そのときにどう対処するかで、社員が成長するか、ダメになっていくかが決まるようです。

失敗した部下を叱るとき、追い詰めすぎると反発したりヤル気を失ったりして教育になりません。特に切れ者の経営者ほど部下に完璧を求めようとするので、厳しく叱責することがあると思います。

はたしてどうでしょうか。この叱責は必ずしも社員の成長にはつながらないのではないでしょうか。「どうしてこうなったのか、君なりの理由があるんだろう。それを聞かせてくれ」「これぐらいは次に取り戻せるから、とにかく頑張ろう」失敗した部下、能力が劣る部下にも逃げ道を与えてやるようにするのがコツといいます。

一関に、私の知り合いの経営者がいます。社員が居つかないという悩みを抱えていました。原因を聞いていると、やはり、失敗した社員を厳しく叱責しているのですが、それに続けて、関係ない過去のことまで持ち出しては頭ごなしに叱責していたのです。

その社長は、完璧主義者な為、部下にも完璧を求め、逃げ場がないまで追い詰める叱責の仕方は、その後も改まっていないようでした。そして「逆切れ」した社員たちが次々と会社を去っています。

中国の兵法書にこんな言葉があります「帰師にはとどむることなかれ」。敵を完全に包囲してはいけないという教えです。完全に退路を断ってしまえば、相手は死にもの狂いで立ち向かってきます。そうなると味方の損害も大きくなってしまいます。逃げ道を作ってやれば、自軍の損害も少なくなるという教えです。

私もそうですが、経営者というものはやはり社員に結果を求めがちです。心のどこかに「給料を払っているのだから」という考えがあります。その気持ちを全否定はしませんが、会社の未来の為に、今一度、社員への接し方を考えたいと思いました。